膀胱炎
主に女性の方でおしっこをする時に痛い、トイレにいったばかりなのにまたすぐに行きたくなる(おしっこはしたいがほとんど出ない)、おしっこが濁っているもしくは赤いなどこれらの症状を認めた場合は急性膀胱炎の可能性が高いです。女性に多いので婦人科や内科を受診される方も多いですが、膀胱炎治療の専門家は間違いなく泌尿器科です。もちろん婦人科でも内科でも抗生剤は処方してもらえると思いますが、簡易な検尿検査しか行わないことがほとんどです。なぜなら婦人科と内科はおしっこの専門家ではないからです。
泌尿器科では顕微鏡を用いて尿中の細菌、白血球、赤血球の有無を確認し、膀胱炎の原因菌を特定する培養検査も行います。近年は抗生剤が効きにくい膀胱炎の原因菌(耐性菌と言います)が問題になっており、泌尿器科医がきちんとした知識と経験を元に、初めから膀胱炎治療を行わないと、ますます耐性菌を増やすことになります。また膀胱炎を放置すると腎盂腎炎まで合併し高熱や強い倦怠感で、場合によっては入院加療まで必要になることもあります。恥ずかしい検査はございませんので膀胱炎かなと思われましたら泌尿器科を受診頂ければと思います。それでは膀胱炎について詳しく述べていきます。
1. 原因について
膀胱炎の原因は大腸菌が主で、その他にもクラブシエラやプロテウス属などのグラム陰性桿菌、ブドウ球菌や腸球菌などのグラム陽性球菌も原因となります。大腸菌などの菌は肛門から膣を経由し尿道に侵入し、尿道から上行し膀胱に感染をもたらします。女性は男性に比べはるかに尿道が短いので尿道から膀胱に侵入やすくこのために膀胱炎を発症するのはほとんどが女性です。もちろん通常の免疫状態では膣内の善玉菌が大腸菌などの悪玉菌の繁殖を阻止し膀胱炎になることはありませんが、睡眠不足やストレスなどで免疫が弱っている場合により発症しやすいとされています。さらに性行為との関連による発症も多く、行為の後は排尿を可能ならすぐに行い菌を洗い流すことをお勧めします。また女性のウォシュレットについているビデ洗浄については全くお勧めしません。その理由は膣内の大腸菌を尿道の方にまき散らかしているので膀胱炎のリスクになるからです。もちろん外出先のトイレに限らずご自宅のトイレでも同様です。
2. 症状について
排尿時痛、頻尿、尿混濁が主な症状で、排尿時痛はおしっこの最後におきることが多いです。
また痛みまではいかなくても、下腹部の違和感や不快感、鈍痛などが膀胱炎の初期の症状であることもたびたびあります。発熱は通常では膀胱炎単独では認めないので、発熱を伴う場合は腎盂腎炎の合併を疑う必要があります。男性の場合は何も基礎疾患のない単純性膀胱炎である可能性は殆んどなく、男性で同様の症状を認める場合は前立腺炎などを考える必要があります。
3. 治療について
膀胱炎治療の基本は内服による抗生物質投与になります。抗生物質で細菌を除菌することが目標です。市販されている膀胱炎治療薬(成分は主に生薬や漢方)には抗生物質は含まれておらず細菌性膀胱炎の根本的な治療にはならないので注意が必要です。つまり急性細菌性膀胱炎には効果がありませんし、市販薬の説明をよく読むと急性細菌性膀胱炎(ほとんどがこちらです)には効果がないと小さく記載あります。さて当院で処方する内服薬の種類ですが、近年は耐性菌の懸念もあり、患者様の年齢や今までの病歴等も加味しそれぞれに応じて選択します。若い女性で抗菌薬の多数使用歴がない方はキノロン系薬(クラビット®など)で3日間投与になりますが、閉経後の女性や耐性菌検出のリスクがある方はセファロスポリン系薬(フロモックス®など)もしくはβラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(オーグメンチン®など)を7日間ほど内服して頂きます。また抗生物質内服に加えて、ご自身でもお水やお茶をたくさん飲んで頂き洗い流すこともお伝えしています。痛みは抗生物質内服開始すると嘘のように1日か2日で消失しますが、お薬は途中で中断せず飲み切って頂きます。
4. 予防について
普段からおしっこを我慢すれば膀胱炎になるのでしょうか。その答えは厳密には正しくないと考えます。おしっこを我慢して、かつ残尿量が増えることによって菌が繁殖しやすくなるので、厳密には普段から残尿量を増やさないように心がけることが肝要です。膀胱の機能が弱ってしまいどうしても残ってしまうような方にとっては、なるべく水分は多く取り、かつトイレにしっかりと行くことで、残尿量の減少に繋がり膀胱炎発症の予防にはなると思われます。またご自身では残尿がないと思っていても実際に腹部超音波検査により残尿量が100ml以上ある方には神経因性膀胱としての投薬開始も検討します。それ以外の予防法としては性行為と関連する膀胱炎も多いので、行為の後は可能ならばすぐにおしっこをすることもお勧めしています。また前述の通り、ウォシュレットのビデ使用はデメリットがあまりにも大きいので使用は控えた方がいいと考えます。