メニュー

尿路結石症

尿路結石はこの40年間で約3倍に増加しており一生涯のうちに男性では7人に1人、女性では15人に1人の割合でいずれかの時期に罹患すると言われているありふれた疾患です。
結石の留まる部位によって上部尿路結石(腎結石、尿管結石)と下部尿路結石(膀胱結石、尿道結石)に分類されますが95%以上は上部尿路結石です。
突然に起きる激しい腰や下腹部の痛み、おしっこが赤くなる(肉眼的血尿)などが典型的な症状ですが血尿は認めないこともあり、急な腹痛のみで、最初は何が起きたか分からず激痛のために救急車で運ばれてくることも多い疾患です。
また多くは自然に排石しますが、サイズが大きく自然に排石が見込めない場合もあります。排石が見込めないにも関わらず放置しておくと、尿管に石が詰まって尿の流れが悪くなり腎臓が腫れて水腎症を引き起こします。水腎症をさらに放置した結果、腎盂腎炎で高熱になる可能性や稀ではありますが左右両方の尿管に結石が詰まると腎不全を起こす危険性もあります。
そのために結石を疑われた際は泌尿器科専門医による診断、治療が必要となります。

それでは次に尿路結石について詳細を一緒に学んでいきましょう。

1. 原因について

尿路結石の原因は多数の要因がございます。
結石とは尿中の成分が結晶化したもので、シュウ酸カルシウムとリン酸カルシウム結石を合わせてカルシウム結石といい、全体の90%近くを占めています。その他には痛風に合併する尿酸結石や遺伝性のシスチン結石などがあり成分により予防法も異なります。

次に環境因子について述べます。環境因子とは地域的に結石多発地帯があると考えられており、食事や飲水や気候などが関与しています。日本では東海、近畿、中四国の各地域に高頻度です。また季節は夏季に圧倒的に多く発生し汗をかくことによる尿量の減少や濃縮が関係しています。その観点からは九州、沖縄地方では発生率が高いと想像されるもののむしろ全国平均より低いので気候だけが原因でないのはこのことからも想定できます。食事は近年、食生活の欧米化で脂肪動物性蛋白質の摂取量増加が増加しており、それらに加えてプリン体の多く含む肉類やコレストロールも原因と考えられています。

その他、高温環境下にある就労者やストレスや自律神経の緊張状態の関与なども指摘されています。
また一部の遺伝性結石疾患にシスチン結石があり、家族歴の確認も必要です。
結石自体が形成される過程は、尿中で結石の成分となる物質の濃度が上昇し、通常ではそれが結晶化されないのですが、脱水などで尿量が減ると結晶化しやすくなると言われています。
また近年、その発生機序が細胞レベルで解明され、病態が動脈硬化の石灰化機序と似ていることから生活習慣病の1症状であるとの概念もあります。

2. 症状について

結石の大きさや形、存在する位置により異なりますが、典型的には背中からわき腹にかけて我慢できないくらいの強烈な痛みが、波のように強弱が繰り返して押し寄せるのが特徴です。
体位により痛みが軽くなることもあり、背中やわき腹を抑えながら体を様々な方向に動かしながら来院されます。
また吐き気や冷や汗、顔面蒼白、血圧上昇など自律神経の症状を伴うことも多いです。
痛みは結石の場所だけでなく、尿管の走行に沿って下方に認めることや(放散痛と呼びます)、睾丸の痛みとして自覚することもあります。またそこまで激痛でなく背中(腎部)の鈍痛や重圧感程度のみこともあり非常に多彩です。
痛みとともに肉眼的血尿を認めれば、より結石の可能性が高くなります。発症する時間帯は夜間や早朝に起きることが多く、通常は3時間程度も持続するために非常に厄介です。また尿管に結石がつまりおしっこの流れが停滞し水腎症をきたし、その溜まった尿が感染を起こすと腎盂腎炎を発症し38度以上の高熱を来しますのでより緊急性が高まります。尿管に落ちた結石が上述の激痛を来す一方で腎結石や膀胱結石は無症状のことも多いですが、腎結石が尿管に落ちた際に激痛を来すので注意は必要です。

3. 診断について

症状と身体所見に加えて尿検査で血尿や膿尿の有無を調べ、腹部レントゲン検査(KUBと呼びます)で結石の部位を確認します。部位は腎、尿管、膀胱など尿の通り道のどの部分に結石があるかを確認します。また腹部超音波(エコー)検査で腎結石の有無や尿が滞っていないか、そのために腎臓が腫れていないかを確認します。当院ではいずれの検査も最新のレントゲンとエコーを用いて当日に迅速に行えます。9割以上の結石はレントゲンで写りますが尿酸結石やシスチン結石はその陰が薄く、場合によっては写らないこともあります。また結石を偶然にも自然排石時に回収することができた場合は持参頂ければその成分の分析を行い今後の再発予防や治療方針に役立つこともあります。

4. 治療について

治療法も部位やサイズによって異なりますが、サイズのまだ小さな状態で診断されることが多く、水分摂取と鎮痛剤や結石の排石を促す薬で自然に排石されるのを待つことが多いです。ただしそのサイズが10mmを超える場合などは外科的な治療の検討が必要であり、近隣の連携施設に速やかに紹介させて頂きます。初めに結石治療に用いられる薬について説明します。ただし根本的にCa含有結石が大きくなることを抑える薬はなく、溶解可能なものも結石の中でもシスチン結石と尿酸結石に対してのみです。

①薬物治療

1)鎮痛剤

まずはなんといってもその激痛を抑えるための鎮痛剤になります。
一般的によく使用されるのはロキソニンやボルタレンといったNSAIDSと呼ばれる消炎鎮痛剤が比較的よく効きます。
内服よりも座薬に即効性があるために結石を疑う患者さんが救急を受診された際に、我々泌尿器科医はボルタレン座薬を最初に用いることがほとんどです。それでも痛みが取れない場合はソセゴン(ペンタジン)の注射を追加することも時々ありますが、大多数の方は座薬でひとまずは落ち着きます。これは対症療法なので実際には薬物治療とはいわず、対症療法と呼ばれることも多いです。

2)排石促進薬

ウロカルン(ウラジロガシという生薬)や猪苓湯といった漢方で尿量を増やすことでその排石を促すとされています。
ただしその明らかな有効性は証明されていないのでそこまで積極的にはお勧めしておりません。またMET(medical expulsive therapy)といって10mm以下の結石で薬物による結石排石促進が自然排石に効果があったと証明されていますが、それに用いる薬は前立腺肥大症に用いる薬で(ハルナール、ユリーフなど)結石での保険適応は認められておりません。

3)クエン酸

尿酸結石やシスチン結石は尿が酸性であると溶けにくく結晶化しやすいために、尿をアルカリ性にする作用があるのがウラリットなどのクエン酸製剤です。ただし尿のpH上昇は逆に感染結石やリン酸Ca結石の成長にもつながるので注意は必要です。
またシュウ酸とカルシウムが結合するのも予防することからシュウ酸カルシウム結石の予防効果もありますが溶かすわけではありません。次にサイズが大きく自然排石が期待できない場合の手術療法について説明します。

②手術療法

1)ESWL(体外衝撃波砕石術)

レントゲンで写る結石に対して体の外から衝撃波を照射し結石を破砕する方法です。
患者様は横になった状態で当てる部位にゼリーを塗布し装置を押し当てて破砕開始します。
強い痛みもほとんどないので手術中の麻酔も不要で、施行前や施行中に痛みに応じて点滴等で鎮痛薬を投与するくらいで低侵襲に行える治療です。治療時間は概ね45-60分程度です。そのために日帰りや1泊2日程度の入院で治療を行う施設が多いです。
ただしレントゲンで写らない石に対しては治療を行えないことや2cmを超える結石では、あまりお勧めしておらず後述のTULなどに利があります。その理由はサイズが大きくなると破砕が1回で完遂できる可能性が低くなり、また破砕された結石はこの治療では自然に排石されることを待つしかないのですが、その数が多いと破砕後にstone streetといって小さな破砕片が連なって詰まってしまうリスクもあるからです。あらかじめ大きな結石に対してこの治療を選択する際はそのリスクも見越したうえで尿管ステントを留置し、破砕片が詰まることによる疼痛や腎盂腎炎を予防することもあります。その他の手術合併症としては血尿や腎被膜下血腫、皮下出血(内出血)がございます。

2)TUL(or f-TUL)

部分麻酔(脊椎麻酔)もしくは全身麻酔下で、尿管鏡という細い内視鏡を用いて、尿管内まで挿入し結石を鏡視下で観察しながらレーザーで破砕する手術です。手術時間は概ね1時間程度で、長くなればなるほど灌流圧の上昇などで感染のリスクが高まるので注意が必要です。現在は尿管鏡の開発がどんどん進み、より細径で安全に施行可能になっており、尿路結石の手術療法ではその中心的な治療法です。尿管の中でも下の方にある結石に対しては硬性尿管鏡といってその名の通り硬い尿管鏡を使用し、硬性鏡が届かない腎臓に近い方にある尿管結石や腎結石に対しては軟性尿管鏡(f-TUL)というやわらかいチューブ状のものを使用して手術を行います。
また破砕した結石は尿管鏡内にレーザーの代わりに回収する用のバスケット鉗子という道具を挿入し可及的に全て回収します。
ESWLに比べると破砕効率は良好で大きな結石にも対応可能です。入院期間は施設にもよりますが2泊か3泊くらいが多く、術後は一時的ではありますが疼痛や感染予防の尿管ステントを留置し後日に外来で抜去します。

合併症としてはレーザーによる尿管の損傷や出血、尿路感染などがあります。また長期に尿管内に埋まりこんだ結石は嵌頓結石といい、手前の尿管が非常に狭く内視鏡が結石まで到達しない場合は前述のステント留置のみで終了し尿管の広がりを待って手術に備えることもあります。

3)PNL

全身麻酔をかけてエコー検査下で背中から腎に向けて針を刺し、腎瘻という穴を作成します。その穴から内視鏡が入るくらいに幅を広げて内視鏡を挿入します。内視鏡からレーザーで結石を直接破砕し、破砕した結石もその穴から取り出します。手術時間に関しては2-3時間で体への侵襲も大きいのですが2cm以上の腎結石に対してはガイドライン上ではまず初めに推奨される手術療法です。

4)ECIRS

より大きな結石に対して②のf-TULと③のPNLを組み合わせて同時に行う手術です。二つを組み合わせることで治療の効率が上がるのですが、やはり体への侵襲もPNL同様に少なくない手術です。また機器も上から(PNL)と下から(f-TUL)と2セット必要で術者もそれぞれ必要なことから行える施設も結石手術を多数行いスタッフも揃っているハイボリュームセンターに限られます。
また現在は腎結石に対する軟性尿管鏡の開発が様々なされておりガイドラインで2cm以上はECIRSやPNLとなっている治療方針も、f-TULの治療範囲が拡大されるのではないかと個人的には考えております。どのような患者様にはf-TULが勧められるか今後の治療成績等に注視していきたいです。

5. 予防法について

長々と結石の治療を述べてきましたが大部分はその疼痛コントロールが中心で自然排石を期待できます。
ただし結石の再発率は50%ほどといわれておりその予防が重要になってきます。
以下に主に5つの予防法を紹介します。

①水分摂取

一日の尿量が2L以上になるように水分を摂取することが再発予防に有効と言われています。
特に夜間には尿が濃縮しやすいので夕食後~就寝までの時間を延長する(寝る前にはなるべく食事をしない)工夫もあります。
ただしコーヒーや紅茶やお抹茶にはシュウ酸が多く含まれるので注意が必要です。

②シュウ酸をとりすぎない

尿管結石の原因のシュウ酸を多く摂取すると、その分尿中のシュウ酸排泄量が多くなるのでとりすぎには注意が必要です。
具体的にシュウ酸を多く含む食品としては、ほうれん草、タケノコ、ブロッコリー、チョコレートなどがありこれらが好物で結石を認める方はとりすぎている可能性があります。また前述のとおりコーヒー、紅茶にもシュウ酸は多く含まれます。

③尿酸値に注意

尿酸とはプリン体が体内で分解される老廃物のことです。
尿酸値が高い状態が持続すると尿酸が結晶化し尿酸結石の原因になります。レバーや白子などにはプリン体が多く含まれます。
また肥満体であればよりプリン体を合成しやすくなるのでより注意が必要で、野菜やきのこ、海藻類は尿をアルカリ化するので結石予防には有効です。

④カルシウムは積極的にとる

結石の原因がカルシウムなのに摂取を勧めるのは一見矛盾のように思えるかもしれません。
これはカルシウムを摂取することで、シュウ酸がカルシウムを腸の中で結合し大便と一緒に体外に排出されるので、その分尿中のシュウ酸の排出を抑え結果として結石の予防になることが多くの研究で証明されています。

➄クエン酸をとる

尿酸値に注意でも述べましたが尿のアルカリ化は尿酸結石の予防には有効です。
食事以外で尿をアルカリ化するものとしてはクエン酸があり、ミカンやグレープフルーツなどの柑橘系を初め梅干しやお酢もクエン酸が多く含まれます。またクエン酸にはシュウ酸とカルシウム、リン酸とカルシウムを結合するのを抑えるとも言われておりカルシウム結石の予防にも有効です。

 

今まで長々と結石について書いてしまいました。実は私自身も腎結石の保有者であり、結石に対する不安は皆さんと同じようにあります。あの激痛を経験しないためにできることをなるべく詳しく説明するためにかなり熱が入りました。結局いろいろ書きましたけれど結論は、バランスの取れた健康的な食生活を送りましょう、にまとめられます。結石は再発しやすいので当院で定期的に画像フォローをいたします。結石は高血圧や糖尿病などのいわゆる生活習慣病の予備軍ともいわれていますので、再発を予防するための生活指導も行います。一緒にストレスをなるべく減らし、健康的な食生活を送ることで再発予防に努めていきましょう!

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME