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性感染症(尿道炎)

性行為を介した感染症のことを指し、その原因微生物は細菌に属するものは淋菌が代表的で、その他には近年急増が問題になっている梅毒Treponema pallidumなどがあります。細菌以外ではMycoplasma genitalium(マイコプラズマ)やChlamydia trachomotis(クラミジア)、その他ヘルペスウイルスなど多岐に渡ります。巷では自己検査キットや、即日に結果が出ますと謳う検査を行う自費クリニックなどがあふれておりますが、それでは正確な診断が行えず、むしろ偽陰性により治療が遅れてしまうこともあります。特に排尿時痛や尿道からの膿など自覚症状のある方や、そのパートナーの方は保険適応で検査および治療が可能です。当院は性感染症に対する専門的知識を有する、泌尿器科専門医のクリニックです。大切なパートナーの方を守るためにも少しでも心配なことがありましたら専門機関を受診することをお勧めします。検査も大切ですが、性感染症治療において何よりも大事なことはその適切な抗菌薬投与になります。近年、クラミジアの薬剤耐性のみでなく、マイコプラズマ感染や梅毒感染の急増なども非常に問題視されています。そのために、それらに対応できる最新の知識をもった専門医による保険医療機関での治療を行うことが重要です。それでは性感染症についてさらに詳しく解説していきます。

1. 淋菌性尿道炎

淋菌による感染症で排尿する時の痛み、尿道から膿が出るなど症状から泌尿器科医であれば比較的診断が容易な疾患です。潜伏期間(性行為から発症するまで)は2-7日と比較的短いのも特徴です。確定診断には尿検査によるPCR法を用いて行います。結果は2日後に判明します。淋菌感染症での大きな問題点は薬剤耐性菌の増加であり、現在ではセフトリアキソン(ロセフィン®等)などの注射が有効とされているので、その症状から淋菌を疑えば点滴注射を約30分程度で行います。淋菌は比較的死滅しやすい菌であるために基本的には1回の投与で治癒可能です。ただし治癒判定は再度PCR法を行い、淋菌が検出されないことをもって治癒と判定することとガイドラインでは定められています。その理由は男性では抗菌薬投与により症状が速やかに改善するので菌がまだ消失していないのに治癒と誤解してしまう可能性や、女性で治癒失敗例を放置すると不妊症や卵管妊娠の原因となるために必ず治癒効果判定を全例にするべきとされています。

2. クラミジア性尿道炎

淋菌性尿道炎に比べて症状は軽いことが多いです。主に、軽度の排尿時の痛みや尿道部の不快感などで女性の場合は無症状であることも多いです。潜伏期間は1-3週間と長いことも特徴です。診断方法は男性ならば尿検査によるPCR法、子宮頸管擦過検査によるPCR法です。PCR法による感度(陽性を陽性と判断する指標)が高いとされているので当院ではPCR法で診断を致します。女性のクラミジア感染症は半数以上が自覚症状なしの報告もあり、またその感染範囲が広範囲のために子宮頸管擦過検査のみの検索は極めて限定的であることも考えられ腹腔内感染があっても子宮頸管から検出できないこともあります。そのためにパートナーの男性が陽性であるにも関わらず女性が陰性であった場合、症状や抗体価検査なども用いて総合的に判断することになります。次にクラミジアの治療についてですが、淋菌同様にその薬剤耐性は問題となっており、現在では従来多く使われてきたニューキノロン系(クラビット®)などは用いずにマクロライド系(ジスロマック®)やテトラサイクリン系(ビブラマイシン®)などの抗菌薬を用いた内服治療を行います。ジスロマックならば1日1000㎎を1回のみ、ビブラマイシンならば1日100㎎の2回投与、7日間となります。また若年の方の精巣上体炎や前立腺炎もクラミジアが原因のこともあり、男性でこれらの疾患を疑った際は、その感染機会があったかどうかの問診も重要となります。一方、高齢男性の精巣上体炎や前立腺炎は大腸菌が原因のことが多いので治療内容が異なります。

治療効果判定は投薬後に2週間後に再度PCR法によりその陰性を確認し治癒と判断します。また女性のクラミジア感染症は卵管妊娠、卵管性不妊症、早流産の原因になることがあり、男性に比べてその合併症はより複雑かつ重大なことが多いので注意が必要です。

3. 非淋菌性非クラミジア性尿道炎

淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎であり、症状はクラミジア性尿道炎を同様です。特にマイコプラズマ・ジェニタリウム(Mycoplasma genitalium)が非常に問題とされております。その他にもウレアプラズマ・ウレアリチカム(保険未収載)、アデノウィルス(保険未収載)、ヘルペスウイルス(保険適応)、トリコモナス(保険適応)などがあります。この中でも最も原因として多いマイコプラズマ・ジェニタリウムについて詳しく説明します。クラミジア感染症で多く用いられているマクロライド系(ジスロマック®)の耐性化、感受性低下が顕著で、従来の尿道炎治療での自然除菌は期待できないレベルになっています。キノロン系の中でもシタフロキサシン(グレースビット®)やテトラサイクリン系(ビブラマイシン®)の感受性は比較的良好であり、尿道炎に対して、むやみやたらにジスロマック®等を使用しない啓蒙活動が医療者にも必要と考えます。また、実はあまり知られていませんが、TV/MG(トリコモナスとマイコプラズマの)同時拡散検出(PCR法)は2022年に保険収載されています。ただし非淋菌性であることが条件なので、淋菌のPCR検査と同時検査が保険上認められていないことが現状の問題点です。

4. 梅毒

梅毒感染の急増が昨今問題となっています。またインターネットやSNSの普及で感染後早期の受診も増えており、初期の検査では必ずしも陽性にならないこともあります。Treponema pallidum(T.p.)感染症で、主に性行為により感染します。感染後に数時間で血行性に全身に散布され、約3週間後にT.p.の侵入部位に局所に小豆大の軟骨くらいの硬さの硬結を認めます(初期硬結)その後、初期硬結の周囲が硬く盛り上がり中心部は潰瘍を形成し(硬性下疳)、いずれも放置しても2-3週間で消失します。好発部位は男性では亀頭やその周囲、女性では大小陰唇などです。その初期硬結や硬性下疳からやや遅れて両側の鼠径部のリンパが腫れ、痛みはなく複数個認めることもあります。そこまでを第1期梅毒とよび、第2期梅毒(全身の皮膚や粘膜の発疹)で認める二期疹まで約3か月間は無症状になります。第2期ではさまざまな発疹(丘疹性梅毒疹や梅毒性乾癬、梅毒バラ疹など)、さらに3年以上経過すると第3期梅毒となりますが、現在では第3期梅毒まではほとんど見られないです。診断方法は血液検査により、T.p.抗体の検出およびカルジオリピンを抗原とする梅毒血清反応(RPR)で行います。診断さえつけばペニシリン(アモキシシリン)内服を4週間もしくは、最近ではペニシリン製剤筋注(ステルイズ®)の単回投与も有効となっていますが、当院では従来のペニシリン内服でも耐性化の報告がないことおよび、本邦ではペニシリンアレルギーによるショック死によりその筋注の使用が出来なかったことも踏まえて、アモキシシリン(サワシリン®など)1回500㎎の1日3回内服を基本治療としています。治療効果の判定はカルジオリピンを抗原とする梅毒血清反応RPRおよびT.p.抗体を治療前、治療後は1か月おきに測定し、おおむね1/2に低減していれば治癒と判定します。

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
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