メニュー

前立腺肥大症

おしっこが近い頻尿)、夜中に何度もトイレに起きる(夜間頻尿)、尿が出にくい排尿困難)、トイレまで尿が間に合わないことがある(切迫性尿失禁)、排尿後のすっきりしない残尿感)、排尿後に下着が濡れていることがある(排尿後滴下)、これらの症状を認める場合、加齢による前立腺肥大症が原因である可能性が高いです。
前立腺とは男性にしかない臓器で膀胱の下に存在し、その中心に尿道が貫いています。ドーナツに例えると穴が尿道で、ドーナツが前立腺にあたります。その役割としては精液に栄養を与える前立腺液を作っていますが、加齢に伴い、重量が増大し中心に貫く尿道を圧迫してしまうために頻尿や残尿感、排尿困難、尿意切迫感、夜間頻尿を引き起こします。加齢現象の一つであり60歳代で7割70歳代では8割に前立腺肥大症が認めるといわれていますが、サイズが大きくても症状が軽い人やサイズはそこまで大きくなくても症状が強い人など様々です。泌尿器科を受診し適切な投薬開始により毎日勢いよくおしっこを出して、夜はおしっこで目覚めてもせいぜい1回まで、と症状改善を自覚頂いた患者さんを今まで数多く治療して参りました。
人生100年時代の今、歳のせいだからと諦めることなく、生活の質改善が見込めますので是非、泌尿器科を受診してください。

1. 原因について

前立腺は男性ホルモンの刺激により増大します。思春期になると急激に大きくなり栗の実程度の大きさまでに至りますがその後は性的成熟後の40-50歳頃までには大きな変化は見られません。その後に加齢とともに再増大し始めます。前立腺肥大症という呼び名ですが、肥大というよりは過形成や増殖がより適切な表現です。肥大した結節は尿道周囲によく発生しこのことが原因で尿道を圧迫し尿の勢いが弱くなります。またジヒドロテストステロンといって男性ホルモンが活性化された物質が体内で前立腺細胞の増殖や脱毛に影響します。前立腺組織の増大はその細胞増殖と細胞死の不均衡から生じるとされていますが、それが加齢に伴うホルモン環境の変化や炎症などさまざまなことが関与しているとされておりはっきりとした定説はありません

2. 診断について

検査の方法は尿検査に加えて国際前立腺症状スコアという質問表に記載いただき、現在の排尿状態を把握します。その後に腹部超音波検査(エコー)を行い、サイズを測定します。腹部にゼリーを塗布しプローブという超音波を出す器機を押し当てるだけで痛みはございません。残尿量と前立腺のサイズを測定し肥大症の診断がつけば投薬開始となります。
また50歳以上の方は後述する前立腺がん検診(PSA検査)を行うことをお勧めしております。

3. 治療について

治療には主に投薬による薬物療法と手術による方法の二つに大きく分類されます。それぞれについて述べていきます。

①薬物療法

多くの高齢男性にみられる良性疾患でありまずはなるべく侵襲の少ない薬物療法から開始になります。

1.前立腺および膀胱の血流を改善し尿の勢いと頻尿を改善する薬(PDE5阻害薬)
ザルティア®(タダラフィル)

もともと勃起治療薬に用いられていたPDE5阻害薬ですが、膀胱や前立腺の血流も改善することが判明し勃起不全薬で販売しているシアリス®と同一成分の半量で効果が期待できます。
膀胱と前立腺への血流増加効果により平滑筋が緩むことで尿勢が改善し膀胱の柔軟性も同時に改善するので畜尿効果(頻尿の改善)も期待できます。

2.尿道を広げて尿の勢いと頻尿を改善する薬(α1blocker
ハルナール®(タムスロシン)、フリバス®(ナフトピジル)、ユリーフ®(シロドシン)など

元来は降圧薬として使われていたα1blockerといった交換神経の刺激を抑える薬ですが、尿道にも存在するα1受容体に作用し尿道を緩めることで尿の出がよくなる薬です。
尿の出だけではなく畜尿症状にも有効性は示されているが、副作用に降圧作用による起立性低血圧があり注意が必要です。
現在は主に3種類使われております。

3.男性ホルモンを抑え前立腺縮小効果を期待する薬(5α還元酵素阻害薬
アボルブ®(デュタステリド)

5α還元酵素はテストステロンを活性型テストステロンに変換する酵素です。
この酵素を阻害することで肥大に深く関わる活性型テストステロンを減少させて前立腺縮小を期待する薬剤です。
またアボルブ®はAGA治療薬であるザガーロ®と同一成分です。
アボルブ®には血性テストステロンの低下作用はありませんが投与によりPSA値が減少するので前立腺癌の評価には注意が必要です。

その他、1-3の投薬を用いても頻尿症状が改善しない場合は膀胱の柔軟性を回復させる治療薬を併用することもあります。

②手術療法

1.経尿道的前立腺切除術(TUR-P)

切除術とは内視鏡を尿道から挿入し電気メスで肥大し尿道を圧迫している腺腫を削り取る手術です。
以前は多く用いられていた手術で私自身も研修医の際はこの方法しかありませんでした。
その後すぐに後述するレーザー手術が普及し、現在ではレーザーのない施設でのみ行われる方法になります。
デメリットは出血量が多くなり腺腫が大きいほど手術時間もかかるなど侵襲は大きくなることが挙げられます。
合併症には出血のほかに、術後の尿道狭窄や射精障害などがあります。

2.経尿道的前立腺核出術(HoLEP、TUEB)

切除術が前立腺の内側から切除するのに対して、核出術は前立腺の内側(内線)と外側(外腺)の間の膜に沿って内側だけをくり抜く手術になります。
切除に比べると出血量は圧倒的に少なく、比較的大きな腺腫にも安全に施行できます。
ホルミウムレーザーを用いて核出するのがHoLEPで電気メスと核出用の手術機器を用いて核出するのがTUEB手術となります。
TUR-Pよりも術後合併症で出血量が少ないなどの観点から第一選択になることの多い手術法となります。
ただし手技的に難しく括約筋損傷による尿失禁のリスクも注意しなければならない合併症の一つです。
TUEB手術はHoLEPと比べると行われている施設は少ない印象ですが、どちらの執刀経験も豊富ですので手術に関して疑問点あれば何でもおっしゃってください。

3.経尿道的前立腺蒸散術(PVP、CVP)

蒸散術は切除術と同様に前立腺の内側からアプローチし、高いエネルギーのレーザーを用いて前立腺を蒸発される方法です。
上記の2つに比べると括約筋の温存により術後の尿失禁のリスクは下げられ侵襲は少ないことがメリットです。
そのため高齢者にも安全に施行可能ですが、設備のある施設が限られていることや特に巨大な肥大症や高度狭窄には向かないなどデメリットもあります。

4.経尿道的水蒸気治療(WAVE)

こちらも前立腺の内側からアプローチし、針を前立腺に刺してそこから放出される高熱の水蒸気で前立腺を退縮させる方法です。
前述のどの手術療法よりも圧倒的に手術時間が短く(5~10分程度)出血量もほとんどありません。
そのために入院期間も1日程度で済み、手術を行うリスクを伴う既往歴や超高齢の方には適した方法ではないかと考えます。
また性機能への影響も前述の切除術や核出術に比べると圧倒的に少なく、その意味では若年の方にもメリットのある手術と考えます。
デメリットとしては術後すぐに組織が退縮するわけではなく、時間をゆっくりかけて組織が壊死し尿道の圧迫が解除されるために一時的ではありますが尿道の管を留置したまま退院する必要があることです。
まだ保険適応になり期間が短い治療ではありますが、術者としての経験が豊富ですので興味がありましたら何なりとご質問ください。

5.経尿道的前立腺吊り上げ術

前立腺の中にインプラントを埋め込み、圧迫の原因となっている腺腫を左右から牽引してその閉塞を解除する方法です。
WAVE療法同様に保険適応になり比較的歴史の浅い治療法ですが、体への侵襲はやはり従来の手術より圧倒的に少ないために手術のリスクがある方には適した方法です。
ただしインプラント自体は異物であるのでそこに結石が付着する、行える施設が限定されるなどのデメリットもございます。

 

このように前立腺肥大の手術療法には数多くの選択肢があり、それぞれのメリット、デメリットを説明のうえ患者さんの希望に沿った治療法を提案できます。
術者として多数の前立腺肥大症手術を行った経験や、自身の大学院時代の基礎研究の結果も踏まえた上でのポイントは、術前の膀胱機能や尿道の炎症、線維化が術後の排尿状態に少なからず影響を及ぼすことです。
つまり手術のタイミングを逸することなく、おしっこが出なくなる(尿閉)になるまで漫然と薬物療法を続けるのではなく、適切なタイミングで適切な術式を行うことが肝要と考えます。
そのためにまずは投薬治療から開始にはなりますが、その間にも当院では定期的なエコー検査などを行い、患者様の訴えの変化によく耳を傾けながらフォローして参りますので前立腺肥大症治療を安心して受けて頂けます。
また前立腺肥大症と前立腺癌の直接関連はありませんが、同じ患者様に合併して起きることも多々あり採血によるPSA検査は定期的に行うことになりますのでその点もご安心してお任せください。

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
▲ ページのトップに戻る

Close

HOME