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前立腺炎

尿道の奥にある会陰部(陰嚢と肛門の間を指します)に痛みや違和感を認める病気で、泌尿器科では頻度の高い疾患の総称です。細菌性非細菌性がありそれぞれ病態も治療法も異なりいまだ不明な点も多いです。また非細菌性では会陰部の血流がうっ滞する要因(長時間ドライブ、オートバイ、ロードバイクなどの自転車、乗馬など)や過度の飲酒、性交が契機になることもあり、それ以外にも骨盤内静脈そうのうっ滞、自己免疫さらにはストレスなどの心理的要因も加わり難治性になることも多いのが特徴です。近年は新たな分類方法が提唱されて4つのカテゴリーに分類されます。(NIH分類)カテゴリー1は急性細菌性前立腺炎、2は慢性細菌性前立腺炎、3は慢性非細菌性前立腺炎(慢性骨盤内症候群、CPPSともいいます)、4は無症候性炎症性前立腺炎(症状なし)です。カテゴリー3のみ、さらに3Aと3Bに分類され3Aは炎症性CPPS、3Bは非炎症性CPPSとなります。それでは原因や治療法について詳しく述べていきます。

1. 原因について

おおまかにその原因には細菌性と非細菌性があります。細菌感染の場合の経路は膀胱炎等と同様に尿道から上行性に細菌が侵入し、後部尿道(前立腺部)を経て前立腺内に到達し発症します。それ以外にも血流やリンパ行性に前立腺に到達することもあります。高齢男性であれば、前立腺肥大症による残尿量多量などの通過障害が誘因となり、大腸菌が主な原因菌であることが多く尿路感染症の一種(カテゴリー1)ですが、若年男性では細菌が原因ではなく、いわゆる性病(クラミジアなど)が原因のこともあります。非細菌性が、前述の治療に難渋するタイプの前立腺炎で、明らかな細菌感染が証明できない炎症で、実はこちらのタイプ(カテゴリー3)の方が前立腺炎の多くを占めています。

2. 症状について

急性細菌性(カテゴリ―1)では高熱や強い会陰部痛、排尿時の痛みや頻尿、排尿困難感を呈します。慢性細菌性(カテゴリ―2)では症状は発熱などの全身症状多認めずに1に比べると軽いものの長期間持続してしまいます。慢性非細菌性(カテゴリ―3)では2と基本的には同様の症状ですがその尿所見や前立腺液に細菌が証明されないものをいいます。カテゴリー4は前立腺全摘後の組織標本で病理学的に炎症を認めたものを分類するためだけで症状はなく臨床的な意義はありません。

3. 治療について

カテゴリ―1では細菌の急性感染症が原因のために、適切な抗菌薬投与になります。内服で加療が可能な場合もありますが、多くは点滴による抗菌薬投与も検討し解熱が得られた段階で内服治療に切り替えることになります。カテゴリー2では内服による経口抗菌薬を4週間ほど投与します。カテゴリー3はその原因に細菌の関与が証明されていないので抗菌薬は無効なことが多いのですが、培養困難な細菌による感染やバイオフィルムの関与が考えられる場合は抗菌薬投与も行います。またベースに排尿障害の原因となる前立腺肥大症がないかもエコー検査で確認のうえ、肥大症を認めた場合は前立腺肥大症薬であるPDE阻害薬(ザルティア®)を使用します。PDE5阻害薬にはその排尿障害を改善する作用機序に血流改善があり、肥大症を有する慢性前立腺炎の方にはある程度効果があるのではないかと考えます。その他にも植物由来成分配合薬(セルニルトン®、エビプロスタット®)や漢方薬、抗うつ薬なども用いられますが、どれも特効薬にはなり得ず、難渋することが現実的には多いです。

前立腺炎は日常診療で多く遭遇する疾患であるにも関わらず、このように様々な薬剤が試みられているが特効薬がなく、多くの患者様と泌尿器科医を悩ます疾患です。少なくともその原因がはっきりしたものに対しては適切な治療を行い、誘因を避けるような指導も有効と考えます。前立腺部がうっ滞する状況を避ける指導や生活習慣の改善、カウンセリングなど各症例に応じた対応が必要と考えます。

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
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