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尿路感染症

尿路とはおしっこの通り道を指します。おしっこは腎臓(厳密には腎実質といいます)で血液をろ過して生成され、腎盂という部位に流れ込み、尿管という管を通り、膀胱にまで至ります。膀胱に貯まったおしっこは尿道を通り外に排出されます。この一連の腎盂、尿管、膀胱、尿道がおしっこの通り道で尿路と総称します。この尿路、つまり腎、尿管、膀胱、尿道に起こった細菌による炎症性疾患のことを尿路感染症(UTI)といいます。大部分は大腸菌をはじめとする腸内細菌による感染で、感染経路としては、細菌は外尿道口(尿道の出口)から侵入し、尿路を上ってきて膀胱や腎にまで感染を引き起こします。また男性特有の前立腺、精巣、精巣上体などの細菌感染症は尿路感染症とは本来は区別されるものですが、関連することも多いのでここでは同様に説明します。尿路感染症には感染を起こしやすい原因となる基礎疾患を有する場合と、有さない場合に分類され、有さない場合は単純性尿路感染症、有する場合は複雑性尿路感染症と呼ばれ、それぞれに原因菌の種類や治療方針などが異なります。それではさらに詳しく説明していきます。

1. 原因について

起炎菌(原因となる細菌)については前述の単純性尿路感染症と複雑性尿路感染症では大きく異なります。単純性尿路感染症はその原因の大部分は大腸菌でその他にもクレブシエラなどのグラム陰性桿菌が多いです。一方、尿路結石や前立腺肥大症による尿閉など、基礎疾患を有する複雑性尿路感染症の原因菌は多岐に渡り、グラム陽性菌ではブドウ球菌や腸球菌、グラム陰性桿菌では大腸菌やクラブシエラ以外に緑膿菌なども原因となります。尿路感染症は最も頻度の高い細菌感染症で男性では10-20%、女性では40-50%も既往を有すると言われます。女性に多い理由は細菌の最初の通り道である尿道が短いために侵入してきやすいからです。感染発症の誘因はストレスや疲労などで免疫力が低下した場合や、糖尿病、悪性腫瘍、高齢者などでも起こりやすいです。さらに尿閉(おしっこが膀胱内から出ない状態)や前立腺肥大症、尿路結石、膀胱尿管逆流現象、神経因性膀胱などこれらが尿の停滞をもたらし複雑性尿路感染症の原因となります。

2. 診断について

まずは尿検査と身体所見で判断します。採尿した尿を顕微鏡で確認し白血球や赤血球、細菌がないかを目視で観察します。またその細菌が具体的にはどのような種類の細菌かを培養検査を行い、培養結果に応じて各種抗菌薬の効果があるかないか(薬剤感受性試験といいます)も必ず調べます。この理由は近年、抗菌薬の不適切使用により抗菌薬に抵抗性のある耐性菌の増加が非常に問題になっており適正使用を行うためです。

ほとんどの尿路感染症は排尿時痛や残尿感、頻尿などの症状を認め、場合によっては

肉眼的な血尿を認めることもあります。発熱は膀胱炎では起きずに、それ以外の尿路感染症(腎盂腎炎や男性特有の急性前立腺炎、急性精巣上体炎、精巣炎)では高熱を認めることが多いです。発熱を伴わない膀胱炎では上記の検査のみで診断がつくことが多いですが、あまりに頻回に繰り返す方などは膀胱内に残尿が残っていないかを腹部超音波検査で確認します。また発熱を認め背部痛もある方は、腎盂腎炎の可能性を考え、同じく腹部超音波検査で尿の停滞が腎にないか(水腎症)の確認をおこない、採血で炎症の程度も確認します。重症と判断した場合は内服の抗菌薬ではなく点滴を用いる必要があるためです。さらに水腎症を認めた場合は尿管に結石がある可能性も高くなるのでレントゲンで閉塞原因となる尿管結石がないかも確認します。精巣炎や精巣上体炎は触診により精巣(たま)やその頭側にある精巣上体が腫れていないか確認し容易に診断が可能です。

3. 治療について

尿路感染症は細菌感染症なので、基本的には抗菌薬の使用が必須です。大部分の抗菌薬は腎排泄でありそのために抗菌薬の尿中濃度は高いので、その治りも肺炎など他の細菌感染症に比べると早いです。ただしそれには一長一短があり、細菌にとっても耐性獲得の温床になり得ます。ですので、正確な診断を行い、年齢や基礎疾患の有無、単純性か複雑性かを見極めて初期治療が大事になります。また細菌の多くは結石や留置カテーテルなどの異物に付着し増殖する際にバイオフィルムという塊を作った状態になり、この状態では抗生剤が効きにくいです。そのため複雑性尿路感染症ではより注意が必要です。各尿路感染についての説明や治療薬の詳細はそれぞれのページをご参考ください。

 

以上、尿路感染症についてのおおまかな説明を述べました。私自身、病院勤務時代には院内感染対策チーム(ICT)に所属し、主に入院患者様の尿路感染症についての治療や助言を多数行って参りました。また尿路感染の原因菌となる各種細菌の監視や薬剤感受性についてまとめ(サーベイランスといいます)を学会で発表し、なるべく耐性菌を生まないような心がけは医師の中でも人一倍強いと自負しております。何か尿路感染症についてご質問あれば何なりとご相談頂ければと思います。

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
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