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過活動膀胱

おしっこが急にしたくなり、またその尿意が頻回におき排尿が我慢できない、もしくは我慢が不可能に近い症状を総称して過活動膀胱と呼びます。
実は40歳以上の男性は7人に1人女性は10人に1人が発症しているとされています。男女合わせると40歳以上の12.4%、80歳以上では約35%の方が過活動膀胱に悩まされているというデータもあります。これを人口に当てはめると過活動膀胱の患者数は1000万人以上と推定され実に多くの方がかかっていて、人知れず悩んでおられます。
多くの場合は尿の回数も多くなり、夜間もおしっこの回数が増えます。尿失禁は伴う場合と伴わない場合がありますがいずれにせよ適切な診断と治療でその症状は改善し生活の質を上げることが可能です。

「歳だから仕方ない」、「恥ずかしいので躊躇われる」のではなく是非おしっこの専門家である泌尿器科専門医の受診をお勧めします。
当院では患者さんの状況に応じて適切な治療の提供をお約束いたします。また女性の方は女性専用外来日も設けております。問診もWEBで可能で、事前に記載頂ければ受付では症状について特にご質問をすることはございませんのでご安心ください。それでは過活動膀胱の原因や診断方法、治療法について述べていきます。

1. 原因について

まず膀胱の機能についてですが、膀胱は腎臓で作られた尿を一時的にためておく袋のようなものです。膀胱の筋肉(排尿筋)は普段は300-500mlほど貯められるように緩んでおり(弛緩している)尿を出すときには収縮します。また膀胱の出口の尿道には括約筋があり、そちらは逆に普段は漏れないようにしまっています。膀胱に尿がある程度溜まってくると、膀胱の神経を通じて脳に信号が伝わり、尿をする準備が整うと脳からの指令で普段は弛緩している膀胱の排尿筋が収縮し、逆にしまっている括約筋が緩むのが排尿のメカニズムです。
過活動膀胱ではこの一連の流れでどこかに異常をきたし膀胱にそこまで尿がまだ溜まっていないにも関わらず急な尿意を催す疾患です。

ここまで長々と述べてきましたが、その原因については実に多彩であり大まかには神経因性と非神経因性に分かれます。
神経因性とはその名の通り神経に問題がある疾患で脳血管障害やパーキンソン病などの神経変性疾患、脊髄や脊椎疾患が含まれます。
非神経因子としては男女ともに加齢による膀胱機能の変化などが言われていますが、特に男性では前立腺肥大症に伴う下部尿路閉塞が代表的です。
女性では女性ホルモンの変化による影響膀胱や尿道を支える骨盤底筋が弱くなることが代表的ですが、その他にも精神的ストレスなど含め特発性(原因不明)のものも少なくありません。

2. 診断について

診断には症状の確認が最も重要です。急に起こる尿意(尿意切迫感)、頻尿(昼間と夜間と尿の回数が多い)、尿意の切迫と同時にまたは切迫感の後に不随意に漏れる(切迫性尿失禁)などの確認を行います。
これら複数の症状を総合的に評価するのに以下の質問票がございます。

過活動膀胱症状質問票
(Overactive Bladder Symptom Score;OABSS)

以下の症状がどれくらいの頻度でありましたか。
この1週間のあなたの状態にもっとも近いものを、ひとつだけ選んで、点数の数字を○で囲んで下さい。

質問 症状 点数 頻度  
1 朝起きた時から寝るまでに、何回くらい尿をしましたか 0 7回以下
1 8~14回
2 15回以上
2 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか 0 0回
1 1回
2 2回
3 3回以上
3 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
4 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか 0 なし
1 週に1回より少ない
2 週に1回以上
3 1日1回くらい
4 1日2~4回
5 1日5回以上
過活動膀胱の診断基準

尿意切迫感スコア(質問3)が2点以上かつOABSS合計スコアが3点以上

過活動膀胱の重症度判定

OABSS合計スコア

軽症

5点以下

中等症

6~11点

重症

12点以上

※あくまで指標ですので、点数に関わらず症状のある方は受診してください。

診断基準としては質問3が2点以上で、かつ合計が3点以上で過活動膀胱と診断されます。
ただし同様の症状を伴う疾患は除外する必要もあります。
例えば尿潜血を認める場合は膀胱結石や膀胱癌を除外、膿尿(おしっこの濁り)を認める場合は尿路感染症を除外、前立腺癌を除外するためにはPSA測定をそれぞれ行う必要があります。
質問票で過活動膀胱の診断がつけば、超音波検査で残尿量を確認し、残尿量が多く出し切れていない(神経因性膀胱)ことも最終的に除外した上で、以下に述べる治療に進みます。

超音波検査

3. 治療について

①行動療法

行動療法にはおもに生活指導、膀胱訓練、理学療法などがあります。
生活指導とは過活動膀胱に対して過剰な水分摂取やカフェイン摂取の抑制により頻尿や切迫性尿失禁が改善することの期待や、早めにトイレにいく、外出先でトイレの位置を確認しておくことも失禁を防止しやすくなるなどの効果もあります。
膀胱訓練とは前述の排尿のメカニズムを説明したのちに短時間から始めて15分単位で排尿間隔を延長し最終的には2-3時間の間隔を得られるように訓練を進めます。
理学療法は骨盤底筋(おしっこを出すのを抑える筋肉)を意図的に収縮させて締めてそれにより排尿筋収縮反応が抑制されることはエビデンスが示されています。
女性における切迫性尿失禁においては膀胱訓練との併用も有効であるとの報告もございますが尿意切迫感や頻尿に対する有効性は検討不十分で、かつ男性に関するエビデンスはない(効果の有効性が示されていない)のが実情です。
そのために副作用もなく低侵襲である行動療法を行うものの、実際には次に述べる薬物療法を併用することがほとんどになります。

②薬物療法

過活動膀胱の治療の中で中心となるのは薬物療法で、多数の薬剤がその有効性と安全性について証明されています。
主な効き方の仕組みは2つあり、一つ目はβ3受容体刺激薬といい膀胱を緩めることで尿をたくさん貯められるようになります。
1回で貯められる量が増えるために、頻尿や切迫感といった過活動膀胱の症状を改善します。
副作用も後述の抗コリン薬に特徴的な喉が渇く、便秘になるなどがほとんど認めないために現在では最初に試すことの多い薬剤です。
二つ目は抗コリン薬といい膀胱の収縮を抑えることで頻尿や切迫感の改善を期待する薬剤です。
収縮を抑えるので回数が減りますが、もともと残尿量が多い場合は逆に全くでなくなる(尿閉)リスクや、副交感神経を抑制することで交感神経が過敏になり、喉が渇く、便も出にくくなるなどの副作用にも注意が必要です。膀胱を緩める薬と膀胱の収縮を抑える2つの薬について詳細を下記に説明します。

4膀胱の柔軟性を回復(過活動膀胱を改善)させる治療薬について

膀胱を緩める薬(β3受容体刺激薬)

ベタニス®(ミラベクロン)ベオーバ®(ビベクロン)

過活動膀胱とは「水の流れる音を聞いた際や、水に触れると急に我慢できない尿意を感じる」などの訴えを示す症候群であり主に膀胱の容量が減少することが原因です。
高齢の前立腺肥大のある方の50-75%に過活動膀胱は合併するといわれており、まずは前立腺肥大症では前述の投薬を開始しますが、それでも頻尿や尿意切迫感の症状を改善しない場合は膀胱を緩める薬を併用します。
膀胱の筋肉に存在するβ3受容体を刺激することで膀胱が広がり膀胱容量が大きくなり尿を貯めることが可能になります。
前立腺肥大症の患者さんに処方する場合はまずは前述の排尿困難に対する投薬を行って上、腹部超音波検査で残尿量も少量であることを確認したのちに使用します。女性では問診や質問表で過活動膀胱と診断し腹部超音波検査で同様に残尿がないか確認します。後述の抗コリン薬に比べると副作用もほとんどなく安全に使用できることから前立腺肥大症の治療薬でも改善しない過活動膀胱では最初に用いる薬剤になります。

膀胱の収縮をおさえる薬(抗コリン薬)

ベシケア®(ソリフェナシン)、トビエース®(フェソテロジン)等

排尿を行うときは膀胱が収縮しており、その収縮には副交感神経の伝達物質であるアセチルコリンが関与しています。抗コリン薬はアセチルコリンの結合を抑え、副交感神経を遮断することで異常な膀胱の収縮を抑制し頻尿の改善に働きます。
ただし副交感神経が遮断されために交感神経が優位になり、前述のβ3受容体刺激薬に比べて、口渇や便秘、排尿困難感の増悪など副作用がやや強くでる傾向があります。
緊張状態で交感神経が活発になるとおしっこも出にくくなりますが、その分喉も渇くイメージです。
またβ3受容体刺激薬と同様に前立腺肥大症の方には前述の薬剤との併用となりますが副作用により排尿障害が悪化し尿閉(おしっこが出なくなる)のリスクもあるためにまずはβ3受容体刺激薬を使用し、それでも頻尿改善効果が乏しい方には抗コリン薬に変えて効果を確認します。
男女ともに便秘がもともとある方には抗コリン薬は使いにくいです。
内服ではなく湿布薬(ネオキシテープ®)もありその場合は便秘等の副作用は軽微ですが、皮膚が赤くなることがあり皮膚の保湿が重要となります。
女性の尿失禁においても抗コリン剤の内服により改善効果が期待できます。

③手術療法

行動療法や薬物療法でも効果が不十分な方にボツリヌス菌が作る天然の毒素(ボツリヌス毒素)を膀胱内に直接注射で注入する方法です。
膀胱鏡という内視鏡を用いて膀胱の筋肉に薬を注射することで、神経を麻痺させて筋肉を弛緩されることで膀胱の異常な収縮を抑えます。
手術時間は10-20分ほどで治療効果は数日で発現し4-8か月間効果は持続しますが、副作用に注意が必要です。
治療方法の仕組みからもわかるように筋肉が麻痺することによる残尿量の増加や、場合によってはおしっこが逆に全く出なくなる(尿閉)や手術に伴う尿路感染症などがあります。
尿閉になってしまいますと一時的ではありますが自ら尿をカテーテルで回収(自己導尿)が必要になることもあります。

 

男性、女性ともにおしっこの問題は歳のせいだからといって諦める必要は全くありません。
今まで多くの患者様にご相談頂き、投薬開始により大変な満足のお声を頂いています。
「もっと早くに受診すればよかった!」、「恥ずかしい、痛い検査をするのかと心配だった」などの声も何度もお聞きしました。しかし実際には痛みや羞恥心を伴う検査もなく、問診、尿検査とお腹のエコーだけで前立腺肥大や過活動膀胱の診断は可能です。
頻尿や尿漏れが改善することにより生活の質の向上が見込めますのでなんなりとご相談ください。

記事執筆者
桃園 宏之
  • 日本泌尿器科学会 指導医
  • 日本泌尿器科学会 専門医
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