意外と多い!?膀胱がんについて
みなさま、こんにちは。ももぞの泌尿器科クリニックの桃園宏之です。季節は真冬並みに寒くなり、朝は布団から出るのが憂鬱で仕方のない今日この頃です。先日、とくダネ!で長年司会を務めていたアナウンサーの小倉智昭さんが膀胱がんでお亡くなりになりました。本日は膀胱がんについてお話をさせていただきます。膀胱がんは、そこまで馴染みがない疾患かもしれませんが、罹患者は意外と多いです。有名人では、芸人としてご活躍されているサンドウィッチマンの伊達みきおさん、ボクシング元世界チャンピオンの竹原慎二さんが罹患されています。伊達さんは、痛みなどの症状のない肉眼的血尿を認めたことで病院を受診すると、ステージ1の膀胱がんが見つかり内視鏡で切除したことを公表されています。竹原さんは、激しい頻尿を主訴に近所のクリニックを受診し、膀胱炎と診断されましたが、一向に改善がなく、その後に血尿を認めたことから泌尿器科専門医を受診したところ、尿細胞診(尿でわかるがんのスクリーニング検査です)が陽性で、膀胱がんが見つかりました。抗がん剤治療と全摘術を組み合わせて治療し、現在もご存命です。また、少し古い話にはなりますが、俳優の松田優作さんも、念願のハリウッドデビュー作である、ブラックレイン撮影中に膀胱がんの告知を受けたものの、治療を拒否し撮影を続行して、翌年に40歳の若さでお亡くなりになりました。お三方とも診断されたのは40歳前後と比較的若い年齢の時でした。共通しているのは、「男性」、「喫煙歴」、「血尿」です。膀胱がんは女性に比べて男性の罹患数が3倍ほどで、男性に多いがんです。さらに喫煙によるそのリスクが明らかです。部位別の死亡数では男女ともに肺がん、胃がん、大腸がんが上位を占めますが、膀胱がんについては、男性では前立腺がんに次ぐ7番目、女性でも咽頭がんや食道がんよりも死亡数は多く、女性特有のがんである子宮頸がんや子宮体がんよりも、やや上位に位置します。つまり、膀胱がんは男性の罹患数が多いものの、死亡数も考慮すると、男女ともに決して軽視できないがんです。また、肺がん、胃がん、大腸がん等に比べ症例数が少ないゆえに、適切な診断・治療に繋がらず、命を落としてしまうがんであるとも言えます。ただし、がん種別の5年生存率でみると、膀胱がんは前立腺がん、乳がん、子宮がんに次ぎ4番目に高く、きちんと診断・治療すれば長期生存が期待できるがんです。その理由の一つとして、膀胱がんが初期で見つかった場合、サンドウィッチマンの伊達さんが受けられたような局所の手術(経尿道的な内視鏡切除)で治療が可能であることが挙げられます。また竹原慎二さんのように、術前または術後に抗がん剤治療を行い、さらに膀胱全摘(がんがより進行して経尿道的手術では不十分であった場合かつ、原則他の臓器に転移がない場合)を行うことで(これを集学的治療と呼びます)、がんのコントロールがある程度可能です。ただし、転移してしまうと、そのような手術のメリットが極めて限定的になることが多く(診断のために前述の経尿道的手術を行うものの、いわゆる根治的な治療ではなくなります)、やはり早期発見、早期治療が重要であることに異論はありません。ほんの数年前までは、転移性膀胱がんの治療は白金製剤の抗がん剤をベースにした抗がん剤治療の一択である時代が長年続いておりましたが、昨今では免疫チェックポイント阻害薬(本庶先生がノーベル医学生理賞を受賞された免疫療法です)の登場や、さらに最新の治療では、抗体と抗がん剤が組み合わさった抗体薬物複合体薬と、免疫チェックポイント阻害薬の併用療法が、治療の最初に用いられることで、その生命予後の延長に大きな期待ができるようになってきています。抗体薬物複合体について、ここではその詳細は割愛しますが、もの凄く簡単に説明すると、がん細胞にある抗原分子をターゲットに抗体が狙い撃ちするために、治療効果を強く発揮できることを特徴としています。この薬剤はほんの少し前までは、治療の最初からは使えなかったのですが、現在では(2024年9月から保険収載)免疫チェックポイント阻害薬と組み合わせて、最初から使用することが可能になりました。少し長々と薬物療法の説明に熱が入ってしまいましたが、まとめますと、膀胱がんは肉眼的血尿を契機に早期発見が可能で(ただし、血尿は自然消失することが多く、ここで放置しては絶対にいけません!!)、適切な診断、治療を受ければ根治や長期コントロールが可能な疾患です。有名人の方のがん告白や死をきっかけにこのようながんを知っていただき、また少しでも多くの方が健康で天寿を全うできるような手助けを、泌尿器科専門医、がん治療認定医として微力ながらできたらと思います。